Howard Hardy | Globe Worsted Yarn Suiting
Howard Hardy / Globe Worsted Yarn Suiting
今季新入荷のなかなか興味深い生地のご紹介。こちらのハワード・ハーディ / グローブウーステッドの生地は、日本国内のマーチャント(生地商社)が、英国のミルに別注したスーツ用生地です。
「Globe Worsted 製のビンテージの糸で生地を織らないかというミルからの提案で、Howard Hardy ブランドで別注した生地」という商社からの説明がありました。この時点で、ハワード・ハーディがまだ存続していたんだという驚きと、グローブウーステッドの糸ということは、織元はあそこのミルなのかなというイメージが浮かびます。
ハワード・ハーディも2000年代まではちらほらと日本国内でも生地は見かけましたが、その後全く見かけなくなっていました。
グローブウーステッドに至っては今となっては知名度はゼロに等しく、その知名度は「生地を紹介したテーラーさんの中で、知っていた方は初めてです」と言われたほどで…
良い生地なのですが、詳しく説明しないことには全く説得力のない生地のため、マニアックになってしまいますがお付き合いください。
Howard Hardy & Co. とは
元々は1850年にロンドンの中でも歴史的に金融地区であるシティに創業、1910年代に当時の最高峰の生地マーチャントが集まっていた同じロンドンのゴールデンスクエアに移転した、生粋のロンドンマーチャントです。
ゴールデンスクエアから、テーラーが集まるサビルロウは程近く、ハダースフィールドなどのミルから生地を仕入れ、テーラーにカット売りをしていた商社ということになります。
戦前のゴールデンスクエアには、1908年に Martin, Sons(マーティンソン)の Fresco を初めて販売したことで知られる A. Gagniere (ガニエ)、スコットランドのツィードミル Walter Thorburn のマーチャント部門であった Lowe, Donald(ロウ・ドナルド)、Fintex of London のブランドネームの方が有名なPendle & Rivett などがあり、ハワードハーディも同様に非常に力のあるマーチャントであったことがわかります。
Globe Worsted とは
グローブウーステッドは、2004年までハダースフィールドに存在したウーステッドスピナーで、つまりは生地を織るためのウーステッド(梳毛)糸を製造していた会社です。
よくイタリアの大手ミルは、「原毛から仕上げまでを行う一貫メーカーです」といった紹介をされます。
一方英国では、原毛のコーミングからスピニング、ウイービング、フィニッシングという生地が完成するまでの工程(実際にはさらに細かい工程がたくさんありますが)は分業であることがほとんど。
グローブウーステッドは、この工程のうちのスピニングを担い、ウィービングを行う会社に糸を納入していました。
当店で保存していた資料に、Taylor & Lodge 創業100周年時のパンフレットがあります。テイラー&ロッジの創業は1883年なので、1983年のパンフレットということになります。
協力会社一覧の中に、グローブウーステッドの名が。
当時からテイラー&ロッジの生地のキャッチフレーズは、 "The World's Most Exclusive & Expensive Cloth" を謳っており、間違いなくトップの生地メーカーでありました。
そんなテイラー&ロッジに"高品質で高価値の生地"を織るために良質な糸を供給していたのが、グローブウーステッドでした。
そして、この一覧の中でグローブウーステッドは、Illingworth & Morris (イリングワース&モリス)グループの一社という表記があります。IMとも呼ばれるこの企業グループは、1990年頃まで存在した英国最大の毛織物製造グループでした。
当時のグループ企業は
- Huddersfield Fine Worsteds
- Learoyd Brothers
- Martin, Sons
- Broadhead & Graves
- Winterbotham, Strachan & Playne(現在のWSP Textiles)
- Salts (Salts Mill は世界遺産です)
- Josiah France
- Crombie
- Hunt & Winterbotham
- Hardy Minnis(John G Hardy + J & J Minnis)
ここまでで、主に生地の織り(ウィービング)を担う会社とマーチャント部門の会社で、現在も名前が知られているブランドとして残っているもの。この他にも、グローブウーステッドのようなスピニング会社、フィニッシュ(表面仕上げ)を行う会社も多数あり、グループ全体で生地の一貫生産から販売までを行っていました。
ただ、すでにこの頃には英国の製造業の衰退が始まっており、イタリアの大手生地メーカーにも押され、製造規模は縮小していきます。90年代にはIMグループは解体、Huddersfield Fine Worsteds グループとして再起を図りますが、工場設備は集約・縮小、2000年初めには Broadhead & Graves(ブロードヘッド&グレイヴス) のKirkheaton MIlls(カークヒートンミルズ)のみでのウィービングとなり、最終的に2004年に破綻してしまいます。そしてその影響を受け、グローブウーステッドも同時に操業を停止してしまいました。以来、グローブウーステッドの糸は製造されていません。
さて、そんなグローブウーステッドの糸はどこから見つかったの?本当にグローブウーステッドの糸なの?という疑問が浮かびます。
いつの間にか復活していたハワード・ハーディのサイトを覗いてみますと、なんとハダースフィールドの Antich & Sons(アンティッチ・サンズ)でウィービングを行っていると記載があります。
Antich & Sons は、コミッション・ウィーバーと呼ばれる織り専門の会社で、基本的に名前は表に出さず様々なブランドやマーチャント向けの生地を製造している会社です。(どうも、現在はAntich & Sons が Howard Hardy のブランドを所持し展開を行っているようです)
前述のカークヒートンミルズに距離的にも近く、2004年の破綻前には、実はかなりの量の生地をアンティッチ・サンズで織っていたという話も当時聞いたことがありました。
当然ながらグローブウーステッドの糸をアンティッチ・サンズに持ちこんで生地を織っていた訳です。急に破綻してしまった結果、織る予定だった生地は製造されず、受け入れた糸は倉庫に眠っていたのでしょう。
生地の質感は、2000年代初頭にたくさん触れた記憶が呼び起こされる、なんとも言えないしっかりとしたコシがありながらの柔らかさ。当時はたくさんの生地があったため気づきませんでしたが、これがグローブウーステッドの糸の質感だったのだなと思える感触でした。
今回は糸にも限りがあるため、濃紺とダークなブルーグレー、ダークグレーの無地3色が生産されました。そのうちお薦めのダークブルーグレーのカットレングスをストックしています。他2色は取り寄せにてお仕立て可能です。
触れてみるだけでも結構ですので、興味がある方はぜひご来店ください。
Howard Hardy / Globe Worsted Yarn Suiting
Season : 秋~春
Weight : 300-310gms
Composition : 100% Wool
シングルスーツお仕立て
標準価格 204,600円(税込)
> 年内はカットレングス・取り寄せとも 163,680円(税込)でお仕立ていたします。
テーラーサクライ有限会社
住所:東京都調布市深大寺東町8-2-8
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